退職届を会社が受理しなくても、原則として退職は可能です。期間の定めがない雇用契約では、退職の意思表示が会社に到達してから2週間で退職できます。ただし、契約期間や退職の伝え方によって扱いは異なります。この記事では、受理拒否の違法性、退職届の提出方法、労働基準監督署への相談など、退職するための具体的な対処法を解説します。
この記事の結論
- 期間の定めがない雇用契約では、一方的な退職の意思表示が会社に到達すれば、原則として2週間で退職できる。会社の承諾は不要。
- 退職届の受理拒否だけで直ちに違法とは限らないが、脅迫などを伴う退職妨害は違法となる場合がある。
- 受け取ってもらえない場合は、内容証明郵便や配達証明を利用して証拠を残す方法がある。
- 退職をめぐるトラブルは総合労働相談コーナーや弁護士に相談できる。
退職届が受理されなくても退職できる?法律上の効力

退職届を提出しても、会社が受理しなければ退職できないわけではありません。期間の定めがない雇用契約で、退職届が一方的な解約の意思表示に当たる場合は、会社の承諾ではなく、退職の意思表示が会社に到達したかどうかが重要です。ただし、退職届と退職願では法律上の扱いが異なる場合があります。
退職には会社の承諾は不要|民法627条と97条
民法627条1項では、期間の定めがない雇用契約について、労働者はいつでも解約を申し入れることができ、原則として申入れから2週間を経過すると雇用契約が終了すると定めています。
また、民法97条1項では、相手方のある意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じると定めています。
※ここでいう「到達」とは、会社が通知の内容を知ることができる状態(了知可能な状態)に置かれることをいいます。担当者が実際に退職届を読んだことや、社内で受理の手続きが完了したことまでは必要ありません。
つまり、退職届による退職の意思表示が会社に到達していれば、会社が「受理していない」「上司の承認が必要」と主張しても、それだけで退職の効力が妨げられるわけではありません。
就業規則に「退職は1か月前までに申し出ること」と定められている場合、民法627条の2週間とどちらが優先されるかについては、裁判例や学説で見解が分かれています。退職日について会社と争いが生じている場合は、就業規則の内容や個別の事情を踏まえ、弁護士に確認することが適切です。
退職届と退職願では法律上の扱いが異なる
退職届と退職願は、一般的に次のように使い分けられています。
| 書類 | 一般的な意味 | 会社の承諾 |
|---|---|---|
| 退職届 | 退職する意思を会社に通知する | 一方的な解約の意思表示であれば不要 |
| 退職願 | 会社に合意による退職を申し込む | 合意退職の場合は必要 |
退職届が一方的な解約の意思表示に当たる場合、会社の承諾は必要なく、到達後は原則として一方的に撤回できません。
一方、退職願が合意退職の申込みに当たる場合は、会社が承諾することで退職の合意が成立します。会社側で承諾する権限を持つ人が承諾するまでは、原則として申込みを撤回できます。直属の上司が退職願を受け取っただけで、会社が承諾したことになるとは限りません。
ただし、書類の名称だけで法律上の効力が決まるわけではありません。「退職願」という名称でも、記載内容や提出時の事情によっては、一方的な解約の意思表示と判断される場合があります。
退職届を受理しないことは違法?会社の対応別に解説

会社が退職届を受理しないだけで処罰の対象となるわけではありません。ただし、退職を妨ぐために脅迫や不当な圧力をかける行為は、違法となる場合があります。
退職届を受け取らない・返却・保留する場合
上司が退職届の受け取りを拒否したり、「人手が足りない」「後任が決まっていない」などの理由で返却したりするケースがあります。また、退職届を預かったまま、受理したかどうかを知らせない会社もあります。
会社が退職届を受け取った場合でも、社内で承認されたとは限りません。ただし、法律上の退職の意思表示が会社に到達していれば、社内で受理の手続きが終わっていなくても、その効力は妨げられません。
一方、退職届を突き返された場合は、会社が通知の内容を確認できる状態に置かれたかどうかが問題になります。受け取りを拒否されたという事実だけで、必ず到達していないと判断されるわけではありません。
なお、退職届の受理拒否だけで労働基準法違反となるわけではありませんが、会社が有効な退職の意思表示を無視して雇用関係の継続を強制することはできません。
パワハラや損害賠償を理由に退職を妨害された場合
退職届を提出した際に、上司から「辞めるなら損害賠償を請求する」「退職を認めず懲戒解雇にする」などと言われるケースがあります。
退職を申し出たことだけを理由に、当然に損害賠償責任が生じたり、懲戒解雇が認められたりするわけではありません。損害賠償には法的な根拠が必要であり、懲戒解雇にも就業規則上の根拠や処分の合理性・相当性が求められます。
また、退職を断念させる目的で暴言を繰り返したり、危害を加えると脅したりする行為は、状況によってパワーハラスメントや脅迫・強要などの問題になる可能性があります。
このような言動があった場合は、発言の日時や内容、メール・チャットの履歴などを保存しておきましょう。会社から具体的な損害賠償請求や懲戒処分の通知を受けた場合は、内容を確認せずに要求に応じるのではなく、弁護士に法的な妥当性を確認することが重要です。
退職届が受理されない場合の対処法

会社が退職届を受理しない場合は、退職の意思を明確に伝え、その通知が会社に届いた証拠を残すことが重要です。まずは提出記録を確認し、それでも対応してもらえなければ、郵送による通知を検討しましょう。
退職届の提出記録を残し、人事部へ意思を伝える
直属の上司が退職届を受け取らない場合は、人事部や総務部など、退職手続きを担当する部署へ直接提出しましょう。担当部署が分からない場合は、会社の代表者宛てに送付する方法もあります。
- 退職届のコピーや写真
- 提出した日付・時刻・相手の氏名
- 退職届を受け取らなかった理由や相手の発言
- 退職についてやり取りしたメールやチャットの履歴
口頭で退職を申し出た場合も、退職希望日を記載したメールを会社へ送信するなど、意思表示の内容を記録に残す方法があります。メールによる退職の意思表示も法律上有効となり得ますが、送信履歴だけでは相手への到達を十分に証明できない場合があるため、注意が必要です。
内容証明郵便で退職届を送る方法と注意点
人事部などに連絡しても退職届を受け取ってもらえない場合は、郵送で退職の意思を通知する方法があります。特に会社が提出の事実を否定している場合は、内容証明郵便の利用を検討しましょう。
郵送方法によって証明できる内容は異なります。
| 郵送方法 | 確認・証明できる内容 |
|---|---|
| 簡易書留 | 郵便物の引受けと配達の記録が残る。ただし、文書の内容までは証明できない。 |
| 内容証明郵便 | いつ、誰から誰宛てに、どのような内容の文書を差し出したかを証明できる。 |
| 配達証明 | 郵便物が配達された事実と配達日を証明できる。内容証明郵便と併用できる。 |
内容証明郵便を利用する場合は、退職する意思と退職希望日を明確に記載し、会社の所在地に送付します。配達証明を併用すれば、文書の内容に加えて配達された事実も記録できます。
ただし、内容証明郵便を送っただけで、必ず退職の意思表示が到達したと認められるわけではありません。会社が郵便物の受け取りを拒否した場合や、不在などで配達できなかった場合は、個別の事情によって到達の判断が異なります。
また、内容証明郵便は退職届の提出に必須ではありません。通常の郵送やメールで退職の意思が適切に伝わっている場合は、改めて内容証明郵便を送る必要がないこともあります。
退職届が受理されない場合の退職日と注意点

退職届が受理されない場合でも、退職日までの出勤や有給休暇の扱いには注意が必要です。また、契約期間が決まっている労働者は、期間の定めがない雇用契約とは退職のルールが異なります。
退職日までの出勤・有給休暇と退職後の手続き
退職届を提出しても、雇用契約が終了するまでは原則として出勤する義務があります。会社が退職届を受理しないことを理由に、退職日まで無断欠勤してよいわけではありません。
ただし、有給休暇が残っている場合は、退職日までに取得することが可能です。会社には一定の条件で取得時季を変更する権利がありますが、退職日を超えて変更することはできません。有給休暇の日数が足りない場合は、退職日までの出勤について会社と確認しましょう。会社の承認を得ずに出勤しなければ、無断欠勤として扱われるおそれがあります。
退職後、会社が離職票や源泉徴収票を交付しない場合は、書類に応じて次の窓口に相談できます。
- 離職票:会社に交付を依頼しても対応しない場合は、ハローワークに相談する。
- 源泉徴収票:退職後1か月を過ぎても交付されない場合は、会社に請求し、対応がなければ税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出できます。
健康保険や年金の切り替えが必要な場合は、退職後の加入先に応じて勤務先、市区町村、年金事務所などで手続きを確認しましょう。
契約社員・派遣社員など有期雇用の場合
契約期間が定められている労働者は、原則として契約期間の途中で一方的に退職することはできません。ただし、会社と合意した場合や、法律上の例外に該当する場合は途中退職が可能です。
民法628条では、やむを得ない事由がある場合、契約期間中でも直ちに雇用契約を解除できると定めています。例えば、重大な健康上の問題などで就労を続けられない場合は、事情によって該当する可能性があります。
また、労働基準法附則137条により、契約期間が1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、一定の例外を除き、契約開始から1年を経過した後であれば、民法628条の「やむを得ない事由」がなくても退職できます。ただし、一定の事業の完了に必要な期間を定めた契約や、高度の専門的知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者に関する一定の契約は対象外です。
派遣社員の場合、雇用契約を結んでいる相手は派遣先企業ではなく派遣元企業です。退職を申し出る際は、派遣元との契約期間や退職条件を確認し、派遣元に意思を伝える必要があります。
退職届が受理されない場合の相談先|労働基準監督署・弁護士

退職届を提出しても会社が対応しない場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナー、弁護士に相談できます。ただし、相談先によって対応できる範囲が異なるため、会社とのトラブルの内容に応じて選ぶ必要があります。
労働基準監督署・総合労働相談コーナーでできること
労働基準監督署は、労働基準法などの法令違反について調査や指導を行う行政機関です。退職届が受理されないという理由だけで、会社に退職届の受理を命じたり、退職の成立を判断することはできません。
ただし、退職を申し出た後に賃金が支払われないなど、労働基準関係法令の違反が疑われる場合は、労働基準監督署への相談が適しています。
一方、総合労働相談コーナーでは、退職の引き止めや職場での嫌がらせなど、幅広い労働問題について無料で相談できます。必要に応じて、都道府県労働局長による助言・指導や、紛争調整委員会によるあっせんなどの制度を案内してもらえます。
ただし、これらの制度は裁判所の判決のように会社へ退職を強制するものではありません。会社が退職の効力を争っている場合は、法律上の判断や交渉が必要になることがあります。
弁護士に相談した方がよいケース
退職届の受理を拒否されているだけでなく、会社との間で法的な争いが生じている場合は、弁護士への相談が適しています。特に、次のようなケースでは弁護士による対応を検討しましょう。
- 会社が退職の成立を認めず、退職日について争っている
- 会社から損害賠償を請求されている
- 未払い給与や退職金などの請求も必要になっている
- 会社との直接の連絡や交渉が難しい
弁護士は、退職の意思表示が有効かどうかを確認したうえで、会社への通知書の送付や退職条件の交渉、未払い賃金の請求などに対応できます。必要に応じて、労働審判や訴訟などの法的手続きを検討することも可能です。
また、弁護士による退職代行を利用すれば、本人に代わって会社へ退職の意思を伝え、必要な交渉を任せることもできます。退職代行を利用する場合の退職届の必要性や提出方法については、関連記事「退職代行を使うと退職届は必要?提出済みでも依頼できる」で詳しく解説しています。
